interview
「人間力」で、
会社は回っている。
——DXの時代に、株式会社保母電設・
保母社長が手放さないもの
「DX」「AI導入」「仕組み化」。
会社を強くするための言葉が、日々あふれています。
効率よく、仕組みで回る会社へ——
その流れは、電気工事の現場にも、確実に押し寄せています。
そんななか、株式会社保母電設の保母社長に「会社が大事にしていることで、社員の皆さんに伝えていることはありますか」と尋ねると、返ってきたのは、まったく別の言葉でした。
——「人間力」。
ツールでも、仕組みでもない。嘘をつかない、裏切らない、義理を欠かさない。
当たり前のようで、いちばん代えのきかないもの。
仕組みを整えれば整えるほど、その根っこにある"人"が問われるのかもしれません。
保母社長にとっての「人間力」と、その原動力を、じっくり聞かせてもらいました。
技術は、五年あれば
誰でもできる
「電気工事って、傍から見ると難しそうって言われるんですけど。
五年もやれば、誰でもできるんですよ。早い遅いはあっても」
意外だったのは、技術職の会社でありながら、保母社長が「技術」をそれほど重く見ていないこと。
自身も、入社して半年は「一番センスがない」と言われた。それでも二年後には、社内で一番になっていた。だから、技術で勝負してくる人に、あまり尊敬のまなざしは向かないのだという。「二十年やってたら、そりゃできるでしょ、って思っちゃうんですよ」。
裏を返せば——技術は、時間をかければ手に入る。ツールも、仕組みも、いずれ揃う。
では、最後に人と人、会社と会社の差になるものは何か。
保母社長の答えが、「人間力」だった。
「仕事ができる・できないの話じゃなくて。普通に一人の人として、ちゃんとした人間になろう、っていうところですね」
嘘をつかない。言ったことをやる。筋を通す。不義理をしない。応援してくれる人に感謝する——小さい頃に言われたような、当たり前のこと。それを保母社長は七つほどの行動指針にまとめ、社内に掲げている。「筋を通す人になろう」「人は鏡。いい鏡でありましょう」。
その正体は、
「義理人情」だった
インタビューの途中、その「人間力」を一言で言い換えるなら何になるのか、二人で言葉を探した。誠実さ?——「ちょっと違うんですよね」。正しさ?——「それも違う」。長い沈黙のあとに、たどりついたのが「義理人情」という言葉だった。
そこが、
一番大事かもしれないですね
義理人情は、日々のふるまいのすみずみに宿っている。
人の悪口を、裏で言わない。「言うんだったら、本人に言うんで。裏で話してることは、その人がいても、同じことを言える」。紹介の義理も、絶対に飛ばさない。誰かに紹介してもらった相手なら、何年経っても、会うたびに紹介者へ報告を入れる。「『お前、何年前の話だよ』って笑われるんですけど。それでも、また報告させてもらいます、って絶対やるんです」。
そして——裏切られても、裏切り返さない。お金を貸した翌日に、連絡が取れなくなったことも、一度や二度ではないという。それでも、催促も、金利を取ったこともない。
裏切られたことは、山ほどあります。
でも、自分から裏切ったことは、
一回もない。
それは、人としての自信になりますよね
起業してから一度も、一日たりとも、支払日を破ったことがない。「この日に払う」と言ったら、必ずその日に払う。誇るでもなく、当たり前のことのように、そう話した。仕組みでは測れない、人間力の手ざわりが、ここにある。
「人のため」にしか、
力は出ない
その人間力を、いちばん奥で動かしているものは何か。尋ねると、答えはとても保母社長らしかった。
自分のためには、
あんまり頑張れないんですよ。
人のためでしか、エネルギーが
湧いてこない
物欲は、ほとんどない。使うお金も、たいてい誰かのため。保母社長にとって、社員は家族のような存在だ。年上の社員も多く、大手出身の人もいる。「その人たちの人生を、預かってる感覚があるんで」。給料をこれだけにしよう、と交わした約束を守るために、会社を大きくし続ける。
かつては、その線引きが広すぎて、パンクしたこともあったという。みんなを助けようとして、自分がすり減ってしまった。だからいまは、境界線をきちんと引く。ただ、こう続けた。「線の内側に入った人は、本当に、ちゃんと守る。それは、ずっと思ってますね」。
負けず嫌いも、
人間力のうち
義理人情を大切にする一方で、保母社長は、とても負けず嫌いでもある。小学校の野球のころから、エースで四番。敵がいなくなるまで努力して、いなくなったら、飽きて、もっと上の環境へ移る。それを、ずっと繰り返してきた。
その感覚を、保母社長はオセロにたとえる。かつて自分を見くびってきた相手を、実力で一枚ずつ、黒から白へひっくり返していく。「今、盤面はほぼ真っ白なんですよ。でも、もっと大きなオセロがある。今度は、そっちをひっくり返しにいく」。目標は、売上百億。
印象的なのは、これだけ負けず嫌いなのに、決して人を見下さないことだ。売上規模の小さい相手を、まったくバカにしない。むしろ、これから伸びていく人として、応援する。「僕自身が、バカにされてきたんで。人にされて嫌なことは、人にはしないんです」。
だからこそ、頭を下げることを、恥だと思わない。「頭を下げるのは、かっこ悪いことじゃない。むしろ、かっこいい。偉そうにするのが、いちばんダサいんです」。強さと、謙虚さ。その両方が同居しているところに、保母社長の人間力があるのだと思う。
落ち込む夜も、
隠さない
ここまで聞くと、まるで無敵の経営者のように見えてくる。けれど、本人は、静かに首を振った。
「情緒は、ぐちゃぐちゃですよ。いいことがあって、悪いことがあって。その波が、すごいんで」。誰にも会いたくない日曜日もある。「見せないだけです」。
ただ、落ち込むこと自体を、ネガティブには捉えていない。「落ち込むなら、落ち込んだ方がいいじゃないですか。そんな完璧な人、いないし」。感情に素直すぎるところも、それも含めて性格だと笑う。「けっこう、人間らしいと思いますよ、僕は」。
弱さを、弱さのまま見せられること。それもまた、人間力の一つのかたちなのかもしれない。
仕組みの時代に、
人間力を
はじめから、経営者だったわけではない。もとは、一人の職人だった。個人事業主として独立し、法人になり、何度も壁にぶつかっては、「このままじゃダメだ」と変わってきた。「壁は、必ず越えてきましたね。とりあえず、ここまでは」。
DXが進み、AIがどれだけ賢くなっても、会社を動かしているのは、最後はやっぱり人だ。嘘をつかない。約束を守る。人を大切にする。仕組みでは代えのきかないその一点を、保母社長は「人間力」と呼び、まっすぐに貫いている。
義理人情を大切にしながら、盤面を、少しずつ白に変えていく。株式会社保母電設・保母社長の歩みは、きっと、これからも止まらない。
取材後記
天下を取りにいくような負けず嫌いの話をしていた方が、ふいに「誰にも会いたくない日曜日もある」と、笑いました。強さも、弱さも、どちらも隠さない。その正直さこそが、この方の「人間力」なのだと思います。
会社を大きくするのは、立派な戦略でも、最新のツールでもなく、こういう一人の"人"なのだ——。取材を終えて、そんな当たり前のことを、いちばん大切に思い出しています。